僕の夏休み vol.6

はあ、はあ、はあ…


あんにゃろうよくも…


公園近くに全速力でたどり着いた俺は、どさっと荷物を下ろす。


ぼんっ!


ユイ「たけふみくん、大丈夫?」


大丈夫じゃないよ。

俺には足が2本しかないんだぞ!!


…ユイより体の大きな俺がそんな事を言うのも格好悪いので口を噤む。


た「だ、大丈夫だ。でも、水…」


持ってきた帽子をユイに被せながら、掠れた声で助けを求める。


俺を限界に到達させた張本人は初めての麦わら帽子に喜び、クルクルと踊っている。


かなた(天の声)「公園でお水飲めるよ。」


た「おう…!かなた!っはあ…はあ…もう来て

       たか。」


軽く挨拶を交わした後、かなたにも麦わら帽子を乗っける。そして、オアシスへの案内を懇願した。


た「ぷはぁぁぁああ!!生き返る…」


公園の水飲み場で生命の水を補給し、顔を洗う。

汗だくのタンクトップを水に濡らそうと考えた時、ある事を思い出す。


た「そーいえば、じいちゃんがこれをくれたん

       だ。お菓子だぞ、一緒に食べよう。」


ユイ「やったー!たけふみくんがくれるお菓

           子、おいしいから好き!!」


ユイは喜んで、赤くてしわしわのそれを頬張る。

しめしめ。

俺も思い切って口に入れる。

俺ら2人に先を越されたかなたも慌ててそれを口に入れる。


ユイ・かなた「うぁぁぁぁあああ」


た「ははは!どうだ美味しいだろう。」


思いつく限りの悪役を自らに取り込み、

笑ってみせる。

かなたには悪いが、ユイに散々振り回された仕返しだ。

俺だって酸っぱくて口が萎むが、2人への悪戯の為だ。平然とした顔で頂こう。


ユイ「おいじぐないぃぃ」


かなた「すっぱーーーーーーー」


た「よぅし、作戦成功。

       熱中症対策だから。汗をいっぱいかく準備

       をするんだよ。この酸っぱいのが効くん

       だ。」


ユイ「たけふみくんの嘘つき!!お菓子じゃな

           いよこんなの!」


た「だって、体に必要なものって言ったってこ

       んなに酸っぱいって分かったらお前ら食べ

       ないだろ?」


本音の半分を伝える。


ユイ「そうだけど…」


かなた「そういえば、お姉ちゃんはたけふみの

              お友だち?」


口を尖らせ涙目のまま、問いかける。

(…ごめんな。)


突然の爆弾に心臓がドクンと跳ねた。

やはり、かなたはユイの事を忘れてしまったみたいだ。不安が的中してしまった。

ユイ、大丈夫か…?


チラッと彼女を見る。


にかっ!!


ユイ「そうだよ、私たけふみくんの友だちのユ

           イ。よろしくね!」


あれ?意外と吹っ切れてるみたいだ。

ユイは笑顔でかなたに手を差し伸べる。


た「…あああ、そう。こいつも良い奴だから一 

       緒に遊んでいいか?」


かなた「たけふみの友だちならいいよ。」


固く握手を交わした二人を見て少し、安心した。


た「よし!メンバーも揃ったし、始めるか!」


かなた「僕がししょーだよ。」


た「あー悪い悪い。ししょー、お山に川を通し

       ましょう。」


かなた「うん。たけふみはお水汲んできて。ユ

               イはお山の堀り方教えてあげる。」


ユイ「穴掘りは得意だよ、まかせて!」


ばばばばば


素手で砂場に深い穴を掘ってみせる。

彼女の後ろには一瞬にして昨日俺達が作ったより大きなお山が出来た。


へっへーんと泥だらけのドヤ顔でこちらを見てくる。


かなた「す、すげー。プロの仕事だ。」


どんな言葉のチョイスだよちびっこ。


…確かに凄い。


俺より砂遊びの素質を認められたユイはあっという間にかなたに気に入られた。

ほっとしたような心から楽しそうな表情だ。


それを見て俺も安心する。


ユイの脅威的な脚力(両手)のお陰で30分も経たないうちに、お山には大きな穴が出来た。


た「穴でか!ため池になりそうだな笑」


たくさん持ってきた2Lペットボトル全てに水を入れ、砂場に運んで来きた。

あとは…


た「よし。最後の仕事だ!水を入れろー!!」


ユイ「おおーー!!」


かなた「(こくんっ!)」


じゃばあっ


一気に大量の水が注がれる。

た「だいぶ溜まってきたな!」

かなたと視線を合わせようとしたその時。


えいっ!

うわっ!


ユイがかなたに水を浴びせた。


ユイ「あははー!かなたびしょびしょだ!」


ばしゃっ!


ムッとした表情のかなたがやり返す。


ユイ「きゃー!冷たい!気持ちいいーー」


かなたは不思議そうにキョトンとしている。

仕返しのつもりで水を掛けたのに喜ばれてしまった。


そんな様子を見て俺は堪えきれず、吹き出した。


た「ぷっ、あっはっはっは!! 

       かなた、喜ばれちゃってるぞ!」


ばしゃっ


た「うっ。」


ふっ、と呆れた顔でかなたが見てくる。


た「こんにゃろ!」


ばしゃっばしゃっあはは!ばしゃ!


ずぶ濡れになって遊んだ。


掛けては喜ばれ掛けられてはやり返し、

夢中になっていた。


にっ。


突然の事に固まるユイと俺。

え、かなた今笑った?


ポカンと見つめる俺達を見て、

かなたはささっと表情を元に戻そうとする。


そうはさせない。


バチッと目を合わせ、暗黙の了解でお兄さんお姉さんは、まだ幼いその子に飛びかかる。


た「かなた!楽しいな!このこの〜〜〜」


ユイ「ほんと!楽しいね!!」


先程あれだけ水を掛け合ったのだ。

ユイの顔がぐしゃぐしゃになっているのはきっとそのせいだ。


かなた「や、やめろーはなれろーーー。」


そう言いながら3人とも笑いが止まらない。

よかった、間に合った。


ミッションクリアの合図に俺は安堵した。


ひとしきり笑ったあとは、いちにのさんっで3人で山を踏んで壊した。

その時…


かなた「どうしよう。」


先程とは別人のように顔が曇る。


た「どうした?」


か「こんなに汚したら、お母さんを悲しませち 

        ゃう…」


小さく震えるかなたを見て、はっと現実に引き戻される。


かなたは笑った。

それで俺のミッションはクリアだ。


でも俺が帰ったあとは?

かなたには母親に攻撃される生活が待っているのだ。


ユイ「…!ごめん…」


小さな声で呟き、ユイも心配そうに見守る。

水をかけ始めたのは自分だと後悔しているのだろう。


なんでだ。

なんで、あの楽しい時間を悔いなければいけないんだ。

ユイもかなたも、なんにも悪い事なんてしてないじゃないか。


一時の解決で終わるわけがない。


何でそんなことも気づけなかったのだろう。


まだだ。まだ終わっちゃいない。

かなたも、ユイもずっと笑えなきゃ。


た「大丈夫だ、かなた。俺のじいちゃんの家に

       行こう。服は俺の母ちゃんが綺麗にしてく

       れるよ。あとな、じいちゃんにお前らのこ

       と話したら、甘いスイカを食べさせてやる

       から連れてこいって言われてるんだ。

       二人とも、来てくれるよな!」


かなた「…いいの?」


た「もちろん!ユイも!甘いもの、好きだ

       ろ?」


ユイ「うん…!」


そして俺達は3人もれなく泥だらけで、じいちゃんの家に向かった。

僕の夏休み vol.5

翌朝


た「じーちゃーん!帽子ふたつないー?


タンクトップと自由研究の為に買ってもらった短パンに着替えながら声を張り上げる。

あとは、キャップを被って水を汲むペットボトルを持ったら準備完了。


じ「あるけどお前、被ってきてなかったか?

       帽子みっつもどうすんだい。」


じいちゃんが部屋まで麦わら帽子をふたつ、持ってきてくれた。

あの2人には少し大きいかもしれないけど、ないよりいいだろう。


た「ありがと。友だちと遊ぶんだ。

       外で遊ぶんだけどあいつら、絶対帽子なん

       て持ってこないから。」


じ「おお、こっちで友だちが出来たのか。

       遊び終わったら連れてこい。

       スイカを食わしてやる。」


た「まじで!やったー、あいつらも喜ぶよ。


じ「そうか、気をつけて行ってくるんだぞ。

       あと外で遊ぶならこれも持ってけ。」


そう言って激すっぱい梅干しを3つ、袋に入れて持たせてくれた。すっぱすぎて俺は苦手なんだけど…

じいちゃんの好意だ。喜ばねば。


た「ウッ、ありがとう…」


じ「お前、梅干し侮っちゃいかんぞ。」


俺の何かを察したじいちゃんは少し不機嫌そうに言った。

効果は分かってる。刺激が強すぎるのが問題なのだ。

2人とも、食べれられるか…?


ガラガラ


ユキ「たーけふーみくーーーーん。あーそびー

           ましょーーー。」


た「はーーーい。今行くー!」


まさか正面から迎えに来るとは。

出来るなら昨日もそうやって登場してくれ。

それになんだその誘い方は。令和だぞ。


なんとなく、人目に触れない方がいいのかと気を使っていた俺は彼女の正面突破に驚愕し、心で悪態をついた。

しかし、こんな呼び出され方にも悪い気はしない。


持ち物を確認し、扉を開けてすぐの階段を駆け下りた。

すると、話し声が聞こえる。

母ちゃんの方が先に玄関に到着してしまったようだ。

後で根掘り葉掘りめんどくさいぞ…


母「あら〜可愛らしい子ねー!お名前は?

       たけふみのお友だち?」


ユイ「ユイ!たけふみくんのお友だち…じゃな

           いかな?」


首を傾げてうーん、と考える。


それを見てちがうのー?ざんねーんと満面の笑みで宣う母ちゃんをよそ目に、ユイに返事をする。


た「友だちじゃないの?傷つくわ。」


ユイ「え!友だちなの?

           友だちってずっと一緒に居る子の事じゃ

           ないの?」


期待と逸る気持ちでまん丸の目が輝いた。


母「あらあら。一緒に居て楽しい気持ちになれ

       るなら、立派な友だちよ。

       時間は関係ないわ。あなたはたけふみの

       事、どう思う?」


キラキラの目がさらに輝く。 

顔はつやつやてかりんっと反射光も眩しい。


ユイ「一緒に居ると楽しいよ!それに、たけふ

          みくん優しいんだよ。私の友だちを笑わ

          せてくれるんだ。それにおいしいお菓子

          だってくれたんだよ。」


母「あらー!たけふみにそんな事が出来るなん

       て。大きくなって…

       ぶっきらぼうな子だけど、仲良くしてやっ

       てね、ユイちゃん」


普段母に反抗しがちな俺は、2人の会話が小っ恥ずかしくて聞いていられなくなり、顔を赤らめる。


た「いいから行くぞ。ユイ。」


ユイ「うん!おばちゃん、またね!」


行ってらっしゃいの声に俺は返事をしない。

最近、母ちゃんと会話をするのがなぜだか恥ずかしく感じてしまう。

放っておいてくれればいいのに。

あれしろこれしろこれするな、うるさいんだよな。


その時、かなたの顔が浮かぶ。

俺の母親は口うるさいし過保護気味だけど、

俺を傷つけようとはしない。

たとえ、俺が辛く当たってしまったとしても。

俺は、家族に恵まれていたのかもしれない…

なのに母ちゃんの言葉を無視して、怒鳴って…

何をやってんだ俺は。

初めてそんな風に考えた。


ユイ「たけふみくん、どうかした?お腹いた

           い?」


少し暗い顔になった俺を心配してユイが話しかける。狐の耳がぴょこんと現れて、垂れてしまっている。


どうやらこいつの変身は感情にも左右されるらしい。

にしても昨日からコロコロと表情が変わり、忙しいやつだ。先程とは打って代わり、しょぼんとした表情を見せる彼女を見て少し元気が出た。


他人(?)に心配を掛けている場合ではない。

今はかなたを笑わせる事に集中しなければ。


た「いや、大丈夫だよ。かなたが待ってる。

       急ごう!」


再び顔がぱっと明るくなる。


ユイ「うん!」


ぼんっ!


返事とほとんど同時に彼女は狐になった。

まさか。


チラッとこちらを見て、全力前進猛ダッシュ


た「まじかーーーーーーーー」


昨日より少し荷物の多い俺は昨日よりも全力で真夏の道を駆け抜けた。





僕の夏休み vol.4

夕方17時30分。


今までで1番大きなお山を作る事が出来、砂遊びの素質を認められた俺はかなたを家まで送っていた。


た「俺が言うのもなんだけどさあ。

       知らないやつにあんなふうに声かけられて

       簡単に付いて行っちゃだめだぞ。

       俺が良い奴じゃなかったら、お前今頃食べ

       られてるからな。」


本気と冗談を織り交ぜながら諭してみる。


か「うん。わかった。」


ほんとかー??って感じだが一先ず分かってもらえてよかった。


繋いだ手がパッと振り払われる。


か「僕ん家ここ。


目の前には4階建てのアパート。

ここがこいつの家か。


いつも友だちの家を見ると少しだけわくわくする。

こいつはどんな家でどんな生活をしてるんだろう。

こいつの事だから母親とはこんな会話があるに違いない。

そんな事を自然と頭の中で考えてしまう。


ただかなたは…

どんな生活をしてるんだろう。

考えるだけで気が重くなる。


た「かなた!明日もあの公園にいる?」


か「たぶんいるよ。」


た「じゃあ、俺明日も行くわ!!

        あの山に川を通そうぜ!!

        バケツとスコップ忘れるなよ。」


か「わかった。またね、たけふみ。」


一瞬、かなたの顔が明るくなった気がした。

まだ笑顔には程遠いが。


ぼんっ!


た「わ、お前どこにいた!?」


ユイが突然現れた。


ユイ「ずっと近くに…」


薄ら笑いでお化けの手を作ってみせる。

そんな事をされてももう怖くないぞ。


た「なんでお前の友だちなのに出てこないんだ

       よ。」


ユイ「だって…何をお話したらいいのかわかん

           ないんだもん。」


え、友だちじゃないの!?

こんなツッコミを入れると話は平行線になる気がして踏みとどまった。


た「…かなたとはどこで知り合ったの?」


ユイ「前はずっと一緒にいたんだ。

           でもね、私の事覚えてるかわかんな

           い。」


わかったようなわからんような。

でもこいつにはこいつの事情があるのだろう。


「まあいいや!とりあえず、明日かなたとまた

    約束したから。お前も来いよ。

     …ってあれ?もしかして、ユイって人間には

     見えない?」


恐る恐るずっと考えてた疑問その2をぶつけてみた。


ユイ「見えるよ。だってユーレイじゃないも

           ん。」


た「え、でもじーちゃん達初めて会うユイを見

       て何も言わなかったじゃん。」


ユイ「人の姿の時はメガネをかけてる人には

   づかれにくいかも。あと君のお父さんは

           こっち見てなかったよ。」


っんだそれ!

メガネって老眼鏡?確かに父ちゃんは将棋に集中すると周り見えなくなるからなあ。


た「なんだよ〜。俺にしか見えないのかと思っ

       てちょっと怖かったんだからな!!」


ユイ「なはは!だからかなたくんには見えると

           思う…けど…」


た「けどじゃない!

       そんなに大事にしてる友だちとしゃべれな

       いなんて寂しいだろ?

       ずっと忘れられてるかも…って影で見守る

       のと忘れられててもまた1から友だちになる

       の、どっちがいい!?」


ユイ「…!!かなたくんと…友だちになりた

           い。」


少し潤んだ目で俯きがちに答えた。

強く言い過ぎたかな。


た「わわ!泣くなよ。

       またカントリーマアムやるから。」


カントリーマアムに釣られて涙を拭う。


た「じゃあまた明日な。

       ユイはどこに帰るの?」


ユイ「あそこの山で暮らしてる。

           明日たけふみくん家にお迎えに行くね。

           ばいばい!」


涙も乾かぬうちに、にかっ!と笑いぼんっと狐になった。

そしてまた猛スピードで走って彼女の家に戻って行った。

…送ってやろうと思ったんだけどな。



なんだか濃い一日だったなあ。

そんな事を考えながらのんびり歩く。


明日こそ、かなたを笑わせるぞ。

もう一度、静かにその決意を反芻した。


僕の夏休み vol.3

今週のお題「自由研究」

ぼんっ

ふわふわの可愛らしい狐の姿に戻った彼女は、チラッと俺を見て、走り出した。

小さな体で意外と早足、ついて行くのもやっとだった。

田んぼ道、道路、集落とどこを通ったかも分からないスピードで駆け抜けていく。

どこまで行くんだこのチビ助。
酸欠の頭で文句を垂れていると、彼女は突然足を止めた。

うわ!
ふわふわの尻尾を踏んづける直前でなんとか自分も留まる。

やべ、考えてた事バレた?
もしかして狐って頭の中読めるの?

少しヒヤッとしながら、恐る恐る前を見る。

彼女の視線の先には小さな公園。
2つ座るところがあるブランコとすべり台、小さな砂場があるだけだ。

この炎天下、日陰もない砂場で5歳くらいの男の子が一人で遊んでいる。

ぼんっ

白いワンピースの少女が現れた。

ユイ「あの子ね、私の友だちなんだ。」

あ、バレてなかった。
少しほっとして、話に耳を傾ける。

た「ともだち?」

ユイ「そう。でもね、ずっと元気がないんだ。
          笑わないの。だからね、たけふみくんに
          あの子を笑わせてほしいの。」

た「笑わせるって…どうしたらいいのさ。
       俺、お笑いとかあんまり見ないんだけ
       ど。」

ユイ「いいからお願い!」

どんっ!

強く背中を押されて、公園に放り込まれた。
大した説明も無しになんて勝手なんだ。
当の本人は、狐の姿に戻り、すべり台の後ろに隠れて心配そうにこちらを見ている。

だいたいユイの友だちなのになんであいつは来ないんだ。

少しイラッとしながら一人で遊ぶ男の子に近づく。

た「や、やあ。こんにちは。何して遊んでる
       の?」

目の前には一人で遊ぶ小さな子ども。そこに歩み寄るぎこちない笑みの見知らぬ男(小学生)。

やべー!!
これじゃあ完全に怪しいやつじゃねえか。
通報とかされねえよな?

冷や汗だかなんだかダラダラ流れる。

男の子「…別に。」

ピシャリ
か、かわいくねーー!!

ピクピクと引きつった口角を何とかさらに引き上げて話を続けようとする。

た「お、俺今すっっっごく暇なんだ。
       てか最近砂遊びとかやってみたいな〜と思
       ってて、良かったら遊び方教えてくれな   
       い?

男の子「お兄ちゃん大きいのに砂遊びもやった
              ことないの?」

あるし!!!!
小さい時山に穴開けて川とか作ったし!!!

た「ま、まあね。だからお願い!俺にもやらせ
       てよ。」

男の子「…いいよ。今大きなお山を作ってるん
              だ。だから砂をたくさん集めるんだ  
              よ。」

た「へえ、なるほど!ありがとう!!  
       ところで俺はたけふみっていうんだけど、
       師匠のお名前は?」

砂遊びの教えを乞う立場なのだから師匠で差し支えないだろう。

男の子「かなた。」

た「かなたか〜いつもここで遊んでるの?」

か「うん。そうだよ。」

た「公園、暑くない?」

か「暑いけどお家にいると、迷惑掛けちゃうか
       ら。」

家にいると迷惑?
どういう事だ。

た「迷惑もなにも。自分の家なんだから居たけ
       りゃ居ればいいんじゃないの?」

か「…僕はなんにも出来ないくせに、食事だけ
       は1人前だからお金が掛かるんだ。
       それに僕、お父さんに似てるんだって。
       お母さんを苦しめたお父さんに似ている僕  
       がお家に居ると、お母さん泣いちゃうん
       だ。

言葉が出なかった。
これが子供のいうこと?意味わかってるのか?
5歳くらいで自分をここまで卑下するなんて普通じゃない。
母親から何度も何度も刷り込まれたのだろう。

「笑わせてほしい。」

ユイの言葉を思い出す。
これはかなり難関なミッションを与えられたんじゃないだろうか。

こんな事情は聞いていない。
やるとも言ってないし。

そもそもユイの友だちだ。
俺には関係ないじゃないか。

断る理由は星の数ほど浮かんでくる。
ただ…

た「かなたはお母さんの事すき?」

か「うん、大好き。  
       僕が悲しませるような事をしなければ、
       すっごく優しいんだ。このスコップとバケ
       ツだって、お母さんがくれたんだよ。」

自慢げにボロボロのそれらを持ち上げる。

そんな酷い事を言われてまで好きだと言える事が理解できなかった。
スコップとバケツなんてこの歳なら買ってもらって当たり前じゃないか。

家族からそんな攻撃を受けたらと考えると、自分はどうするのか、想像もつかなかった。

た「そっか!じゃあそのバケツ貸してくれ!
       兄ちゃんが砂いっぱい詰めてくるか
       ら。」

か「まかせたぞ。」

少し上から目線で言われ、笑ってしまう。
お盆休み初日の出来事。
この3連休が終われば、じいちゃん家から帰らないと行けない。
残りあと2日でこの子を笑わせられるだろうか。

事情を聞いてしまったからにはお兄さんとして放っておけない。

ああもう!!!
やるしかない。絶対に笑わせてやる!!!
待ってろユイ!かなた!!

僕の夏休み vol.2

今週のお題「自由研究」


???「好きなお菓子を持ってついてきて!」


彼女は笑顔で言う。


た「…は?ちょっとまってよ。君の名前は?


やっと裏返り気味の情けない声が出た。

少し攻撃的な言い方になってしまった。

けど、当然の疑問その1だ。


ユイ「ああ、私はユイ!よろしくね。

           さあ、行こ!


明るく前向きな声に、さらに混乱する。

幽霊ってこんなだっけ?

グイッと引っ張られ、彼女に触った感じがあるのに驚きながらもペースを飲み込まれてしまった。


た「わ、わかったから!引っ張るな!」


階段を降りてじーちゃんの部屋に行く。

老眼鏡を掛けて父ちゃんと将棋を指しているところだった。


た「じーちゃん!お菓子ある?」


じ「あるぞ。冷蔵庫にお前が気に入ってたカン  

       トリーマアムが入ってる。好きなだけ食べ     

       な。」


…神かよ。


た「ありがとう!俺、ちょっと外で遊んでくる

       ね。」


じ「おおう。気をつけてな。」


父「あんまり遅くなるなよ。」


バタバタと台所へ向かう。

じーちゃんも父ちゃんも隣のこいつの事、なんにも言わなかった。

やっぱり見えていないんだろうか。


ユイ「カントリーマアムってなに?」


た「え、知らないの?クッキー?みたいな美味

       しいやつ。食べてみな。」


冷蔵庫から取り出した好物をひとつ渡す。

1番好きなココア味。ひえひえで普段より少し歯ごたえのあるそれを彼女はぱくっと1口で頬張った。


ユイ「ん、んまぁ〜〜〜〜〜〜///」


彼女は両方のほっぺたに手を当て、

その場に寝転び足をバタバタ大喜び。


た「ふっ。そんなに?笑」


プレゼントした好物をこうも全身で喜ばれると、こっちまでなんだか嬉しくなる。


…………………あれ?


ぴょこっ

ふぁっさぁ


喜ぶ彼女に、人にはないものが現れた。

頭に可愛らしい2つの耳。

お尻にはふさふさ黄金の尻尾。


た「!?!?!!??お前……!!」


ユイ「あはー!バレちゃった?」


そう、彼女は人に化けた狐だったのだ。

写真もまやかしだったのか。

とりあえず、ユーレイじゃなかった事に少しほっとした自分がいる。

狐だとしても十分超常現象だけど。


ユイ「よし!お菓子も持ったし、出発だ!

           会ってほしい子がいるんだ。 」


化かされていた事は悔しいが、悪意を持って俺に近づいたわけじゃ無さそうだ。


まだ分からない事だらけだけど、彼女の言う通りついて行ってみることにした。






僕の夏休み vol.1

今週のお題「自由研究」


じーーーじっじ


たけふみ「あっちぃ」


お盆休み。

僕は両親と共に田舎の祖父の家に遊びに来ていた。

そこで僕は今年最大のミッションを片付ける事にした。


自由研究。小学生の宿敵だ。

しかし、何をするかはもう決めている。


タイトル : 昔の夏を体験する


…という建前でアイスを頬張る自分の写真と感想文で乗り切ろうとしていた。


エアコンは無し。白いタンクトップに黄土色の短パン、麦わら帽子にアイスキャンデー。おまけに首振り扇風機で夏を堪能する。


きっと科学の発展への感謝と敬意でA3用紙はすぐにいっぱいになるだろう。


舐め腐った考えで真剣に取り組む。

やり始めたことを少し後悔し始めているが、一日で1ヶ月分の重荷を下ろせると思えば頑張れる。

温暖化の今、冷房なしのこの環境は当時よりも過酷なものかもしれないが。


まあいい。早く終われ。


そろそろ、固定概念で固められた「昔の夏」に馴染んできた事だろう。

さっさと写真を撮って終わらせるか。


た「じーちゃーーーーん!写真撮ってー!!」


じいちゃん「おおーーーーう、ちょっとまっと

                      れー!!」


しばらくして、スマホ片手に現れたじいちゃんはスイカとうちわを持っていた。


じ「これも置いとけ。それっぽいだろ。」


た「おお!じいちゃん天才!!さんきゅー!」


こんなテキトーな自由研究に文句言わず付き合ってくれる、優しいじいちゃんだ。


じ「撮るぞー、ばっちりきめろ!はい、ちー

       ず。」


カシャッ


汗がきらめく渾身の笑顔。

夏だねえと言いたくなる1枚。


じ「いい写真じゃないか。 LINEで送っておく

       からな。じゃあ、あっちの部屋でスイカ

       食べよう。それ、持ってこい。」


今渡されたスイカを持ち、冷房の効いた部屋へ移動する。


ふぅーっっ。

頑張った。えらいぞおれ。


達成感を味わいながら甘いスイカを頬張った。


よし、写真どんなになったかな。


確認するためにじいちゃんとのLINEを開く。


画像をタップすると、、


ヒヤッ


え?今一瞬寒かったような…

気のせいか。


もう一度写真に目を落とす。



にかっ!!!!!



!?!?!?


誰だこれ。

そこには満面の笑みの自分と、自分の肩に抱きつき同じく満面の笑みの少女が写っていた。


じ「どうだ、よく撮れてるだろう。」


た「え、う、うん!!夏っぽくていい写真だ

       ね。ありがとう。俺、上で自由研究完成さ

       せてくるね!」


じ「おーう、がんばれな。」


スマホを抱えてドタバタと2Fへ上がる。

階段を上がって正面の部屋が昔の父ちゃんの部屋。最近はじいちゃん家に遊びに来た時の俺の部屋になっている。


ガチャッバン!


扉をしっかり閉めたのを確認し、恐る恐るスマホをもう一度見る。


やっぱり、そこには涼し気な白いワンピースを着た見知らぬ少女が写っている。


……かわいい子だな。

っておい!!呑気か!!


じいちゃんには見えてなかったのか?


ぐるぐる色んな事を考えながら写真を見ていると首筋がヒヤッとした。


ビクっ

 恐る恐る後ろを見る。誰もいない。

けどまさか、ユーレイ的なあれ?もしかして。


画面をもう一度みる。


あれ!?

さっきまで写っていた少女が居なくなった。


ゾッ


怖っ!まじか!

ガチのやつじゃん…



???「わっ!」


た「うぁぁぁぁああああああああ」


心臓は胸を突き破る勢いで跳ね上がり、その衝撃で俺はいすごとひっくり返った。


そこには、あの写真の少女がいた。


た「だ、だだだだだれ???」


漫画のようなキョドりを見せてしまう。

いや、誰だってこうなるだろう。


???「あははー!びっくりした?

              いつも遊びに来るたけふみくんだよ

               ね?ずっとお話がしたかったんだけど

               緊張しちゃって…   

               やっときっかけが出来たから頑張っ

               ちゃった♪」


頑張っちゃった♪…じゃねーよ!!

俺の縮んだ寿命返せ!ってかユーレイ??

お化けなのか???なんで俺の名前知ってる????


浮かぶ言葉はひとつも声にならない。

パクパクと酸欠の魚のように口が動くだけ。


???「実はね、たけふみくんにお願いがある

              の!」


俺が声を発する準備ができる前に、

彼女は話を進め始めた。




Gが出た

2021年8月10日 PM20:00

この日を一生忘れることはないだろう。


Gが出た。






約5ヶ月ぶりの帰省。


PCR検査を無事に済ませ、

胸踊らせながら荷物をつくった。


部屋の掃除も完璧。


3月に引っ越してきてからいちばん綺麗な状態の部屋に見守られながら、長旅のお供、コーヒーを用意していた。


牛乳もたっぷりと注ぎ、やっと出発だ!!!




テクテクテクテクテクテクテクテクテクテク



…?




テクテクテクテクテクテクテクテクテクテク



…………ヴッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ


なぜいま!?!?

お前どっからきた!?!!??


いやいやいやまてどうしたらいいのでかいぞ???


固まったまま脳みそだけ悲鳴をあげて大暴れの私を他所に、通気口の延長上、天井付近をやつは呑気に散歩でもしに来たようだ。



きんもっっっっっっっ



こんな私も田舎の山の麓育ち。

虫はそれなりに見てきた。

Gだって初めてじゃない。


ただ今回は…


え、お父さん……は………?


振り返っても誰もいない。


そりゃそうだ。

私は一人暮らしだ。


え、まってこれ誰が処理するの?


ここに来て、私は今まで両親に甘えきりだったのだと自覚した。


旅の準備は万端。

スマホはもう車の中。


対処法を調べる事も、助けを呼ぶことも出来ない。


どうしよう。




ゴホッ(天の声)



………………あ!お隣さんがいるじゃないか!!


生活音が筒抜けで疎ましかった壁に、

これ程感謝したことがあっただろうか。


ようし、いでよ!喋ったことないお隣さん!!







あと数ミクロンで壁に拳が触れるという時、ふと思いとどまった。



普通に迷惑じゃね??



当たり前の考えが頭をよぎった。


なんか隣いるなぁくらいに思ってたやつからの突然の壁ドン。

乱暴に呼び出されて渡されたミッションはG退治。




…………………激おこじゃね???

私なら怒る。

少なくとも感情が顔面に思いっきり出る。


しかも、今壁叩いたらやつ飛びそう。。。(ゾッ)


なしだ!お隣さんは頼れない。


じゃあどうする?????

だれか、だれかだれかだれか…!!


「誰かに頼ってるヤツは、なにひとつ成功なんてしない」


ふっと頭に浮かんだ言葉。


昨日読んだ本、「ブログでたべてけてる。:サイト開設9ヶ月で15万円稼ぐようになった僕の物語と、そのノウハウ」の一節だ。


この物語(実話)の主人公は、旅ブログにリアリティを持たせるため、なけなしのアルバイト代を握りしめ、アジアへ旅に出るのだが、現地で自分のお金は底を尽きた。そこで、友人のクレジットカードを頼りにしたが、叶わなかった。そして彼は大変な苦労をして、4日分の宿を探す事になる。


彼が旅で学んだ事は、大きな敵を前にした私の心に一日越しでズシンと響いた。


そうだ、もう大人になったんだ。

自分で何とかするんだ。

プルスウルトラ!!!!


もう色んな所から色んな言葉を借りて自らを鼓舞し、私はやつに立ち向かった。


浮かんだ選択肢は3つ


1. 即時入居可能の物件を探してすぐに引っ越す。

時刻は夜の20時を過ぎた。現実的じゃない。


2.シンプルに捕まえる。

ガムテープとか持ってないしやつの感触を感じたくない。却下。


3. とりあえず何かで閉じ込めて動きを封じてから考える。

なんか嫌だ。却…いや。今出来るのはこれしかない。


幸い、食品用パックは沢山ある。

今後使用したパックは二度と使えなくなるが、

緊急事態だ。仕方がない。


もう1つ問題が。


このパックで閉じ込めたとして、

その後どうする?


どちらが先に力尽きるか、

我慢比べになるぞ???

やだ。Gと共に1晩過ごすなんて。


あ!アイラップがあるじゃないか!


アイラップとは、スーパーなどでよく見かける、野菜とか濡れやすいパック品とかを入れる透明のビニール袋だ。


これをパックに被せる。

Gを袋の上からパックで閉じ込める。

パックを外して素早く袋の口を閉じる。


これしかない。

いざ!!!!!!!!!


結果、意外とすんなりパックの中には収まってくれた。

天井付近にいたので、ゆっくりゆっくり窓の方へ誘導する。

この間30分。

後は窓を開けて袋の口を閉じてGを解き放つだけ!!

(殺す勇気はない)


ガタガタガタガタ


あれ?手が震える。おかしいな?

汗も止まらない。


可哀想に、相当無理をしていたのだろう。

あと一歩のところで恐怖に負けてしまい、動けなくなった。


ここからどうしよう。

あとは袋の口を閉じるだけじゃないか。


でも力が緩んだ隙を狙って羽ばたきだしたら??

正気を保っていられるだろうか??

(絶対むり)


ガタガタガタガタ


震えが止まらない。

あと少し、あと少しなんだ。

こいつさえ排除出来れば、安心して実家にかえって、お気に入りのケーキ屋さんで買ったお土産のケーキを家族で頬張るんだ!!!

もう少しだ!!


そんなことを考え、固まることさらに30分。

パックと袋の向こうに微かにうごめくやつが見える。

きもい。やだ。


こんな事ではいつまで経っても帰れない。


やれ!長期戦でやつも弱っている。

今ならできるお前ならやれる!!


やっと震えが落ち着いた手で少し窓を開ける。

そして、パックを外し素早く袋の口を閉じた。そして、、



………行ったか……………………………………………


長い戦いが終わった。

無事に私の城から、招かれざる客を排除する事が出来た。


何より嬉しかったのが、初めて1人でやつに立ち向かい、勝てた。


「誰かに頼ってるヤツは、なにひとつ成功なんてしない」


あの言葉がもう一度浮かぶ。


やったよ、お父さん。。。


その足でギリギリ開いていたスギ薬局に滑り込み、コンバットを買い込んだ。


それらを部屋中に設置し、安心して自宅を後にした…


そしてこの体験を今私は自宅で書いている。


なぜなら出発してなかなかたった頃、

目薬を忘れたことに気づいたから。


ごめん、今日は帰れない。


家族で美味しいケーキを頬張るのはもう少し先になりそうだ。

(賞味期限大丈夫かな)