僕の夏休み vol.4

夕方17時30分。


今までで1番大きなお山を作る事が出来、砂遊びの素質を認められた俺はかなたを家まで送っていた。


た「俺が言うのもなんだけどさあ。

       知らないやつにあんなふうに声かけられて

       簡単に付いて行っちゃだめだぞ。

       俺が良い奴じゃなかったら、お前今頃食べ

       られてるからな。」


本気と冗談を織り交ぜながら諭してみる。


か「うん。わかった。」


ほんとかー??って感じだが一先ず分かってもらえてよかった。


繋いだ手がパッと振り払われる。


か「僕ん家ここ。


目の前には4階建てのアパート。

ここがこいつの家か。


いつも友だちの家を見ると少しだけわくわくする。

こいつはどんな家でどんな生活をしてるんだろう。

こいつの事だから母親とはこんな会話があるに違いない。

そんな事を自然と頭の中で考えてしまう。


ただかなたは…

どんな生活をしてるんだろう。

考えるだけで気が重くなる。


た「かなた!明日もあの公園にいる?」


か「たぶんいるよ。」


た「じゃあ、俺明日も行くわ!!

        あの山に川を通そうぜ!!

        バケツとスコップ忘れるなよ。」


か「わかった。またね、たけふみ。」


一瞬、かなたの顔が明るくなった気がした。

まだ笑顔には程遠いが。


ぼんっ!


た「わ、お前どこにいた!?」


ユイが突然現れた。


ユイ「ずっと近くに…」


薄ら笑いでお化けの手を作ってみせる。

そんな事をされてももう怖くないぞ。


た「なんでお前の友だちなのに出てこないんだ

       よ。」


ユイ「だって…何をお話したらいいのかわかん

           ないんだもん。」


え、友だちじゃないの!?

こんなツッコミを入れると話は平行線になる気がして踏みとどまった。


た「…かなたとはどこで知り合ったの?」


ユイ「前はずっと一緒にいたんだ。

           でもね、私の事覚えてるかわかんな

           い。」


わかったようなわからんような。

でもこいつにはこいつの事情があるのだろう。


「まあいいや!とりあえず、明日かなたとまた

    約束したから。お前も来いよ。

     …ってあれ?もしかして、ユイって人間には

     見えない?」


恐る恐るずっと考えてた疑問その2をぶつけてみた。


ユイ「見えるよ。だってユーレイじゃないも

           ん。」


た「え、でもじーちゃん達初めて会うユイを見

       て何も言わなかったじゃん。」


ユイ「人の姿の時はメガネをかけてる人には

   づかれにくいかも。あと君のお父さんは

           こっち見てなかったよ。」


っんだそれ!

メガネって老眼鏡?確かに父ちゃんは将棋に集中すると周り見えなくなるからなあ。


た「なんだよ〜。俺にしか見えないのかと思っ

       てちょっと怖かったんだからな!!」


ユイ「なはは!だからかなたくんには見えると

           思う…けど…」


た「けどじゃない!

       そんなに大事にしてる友だちとしゃべれな

       いなんて寂しいだろ?

       ずっと忘れられてるかも…って影で見守る

       のと忘れられててもまた1から友だちになる

       の、どっちがいい!?」


ユイ「…!!かなたくんと…友だちになりた

           い。」


少し潤んだ目で俯きがちに答えた。

強く言い過ぎたかな。


た「わわ!泣くなよ。

       またカントリーマアムやるから。」


カントリーマアムに釣られて涙を拭う。


た「じゃあまた明日な。

       ユイはどこに帰るの?」


ユイ「あそこの山で暮らしてる。

           明日たけふみくん家にお迎えに行くね。

           ばいばい!」


涙も乾かぬうちに、にかっ!と笑いぼんっと狐になった。

そしてまた猛スピードで走って彼女の家に戻って行った。

…送ってやろうと思ったんだけどな。



なんだか濃い一日だったなあ。

そんな事を考えながらのんびり歩く。


明日こそ、かなたを笑わせるぞ。

もう一度、静かにその決意を反芻した。