僕の夏休み vol.5

翌朝


た「じーちゃーん!帽子ふたつないー?


タンクトップと自由研究の為に買ってもらった短パンに着替えながら声を張り上げる。

あとは、キャップを被って水を汲むペットボトルを持ったら準備完了。


じ「あるけどお前、被ってきてなかったか?

       帽子みっつもどうすんだい。」


じいちゃんが部屋まで麦わら帽子をふたつ、持ってきてくれた。

あの2人には少し大きいかもしれないけど、ないよりいいだろう。


た「ありがと。友だちと遊ぶんだ。

       外で遊ぶんだけどあいつら、絶対帽子なん

       て持ってこないから。」


じ「おお、こっちで友だちが出来たのか。

       遊び終わったら連れてこい。

       スイカを食わしてやる。」


た「まじで!やったー、あいつらも喜ぶよ。


じ「そうか、気をつけて行ってくるんだぞ。

       あと外で遊ぶならこれも持ってけ。」


そう言って激すっぱい梅干しを3つ、袋に入れて持たせてくれた。すっぱすぎて俺は苦手なんだけど…

じいちゃんの好意だ。喜ばねば。


た「ウッ、ありがとう…」


じ「お前、梅干し侮っちゃいかんぞ。」


俺の何かを察したじいちゃんは少し不機嫌そうに言った。

効果は分かってる。刺激が強すぎるのが問題なのだ。

2人とも、食べれられるか…?


ガラガラ


ユキ「たーけふーみくーーーーん。あーそびー

           ましょーーー。」


た「はーーーい。今行くー!」


まさか正面から迎えに来るとは。

出来るなら昨日もそうやって登場してくれ。

それになんだその誘い方は。令和だぞ。


なんとなく、人目に触れない方がいいのかと気を使っていた俺は彼女の正面突破に驚愕し、心で悪態をついた。

しかし、こんな呼び出され方にも悪い気はしない。


持ち物を確認し、扉を開けてすぐの階段を駆け下りた。

すると、話し声が聞こえる。

母ちゃんの方が先に玄関に到着してしまったようだ。

後で根掘り葉掘りめんどくさいぞ…


母「あら〜可愛らしい子ねー!お名前は?

       たけふみのお友だち?」


ユイ「ユイ!たけふみくんのお友だち…じゃな

           いかな?」


首を傾げてうーん、と考える。


それを見てちがうのー?ざんねーんと満面の笑みで宣う母ちゃんをよそ目に、ユイに返事をする。


た「友だちじゃないの?傷つくわ。」


ユイ「え!友だちなの?

           友だちってずっと一緒に居る子の事じゃ

           ないの?」


期待と逸る気持ちでまん丸の目が輝いた。


母「あらあら。一緒に居て楽しい気持ちになれ

       るなら、立派な友だちよ。

       時間は関係ないわ。あなたはたけふみの

       事、どう思う?」


キラキラの目がさらに輝く。 

顔はつやつやてかりんっと反射光も眩しい。


ユイ「一緒に居ると楽しいよ!それに、たけふ

          みくん優しいんだよ。私の友だちを笑わ

          せてくれるんだ。それにおいしいお菓子

          だってくれたんだよ。」


母「あらー!たけふみにそんな事が出来るなん

       て。大きくなって…

       ぶっきらぼうな子だけど、仲良くしてやっ

       てね、ユイちゃん」


普段母に反抗しがちな俺は、2人の会話が小っ恥ずかしくて聞いていられなくなり、顔を赤らめる。


た「いいから行くぞ。ユイ。」


ユイ「うん!おばちゃん、またね!」


行ってらっしゃいの声に俺は返事をしない。

最近、母ちゃんと会話をするのがなぜだか恥ずかしく感じてしまう。

放っておいてくれればいいのに。

あれしろこれしろこれするな、うるさいんだよな。


その時、かなたの顔が浮かぶ。

俺の母親は口うるさいし過保護気味だけど、

俺を傷つけようとはしない。

たとえ、俺が辛く当たってしまったとしても。

俺は、家族に恵まれていたのかもしれない…

なのに母ちゃんの言葉を無視して、怒鳴って…

何をやってんだ俺は。

初めてそんな風に考えた。


ユイ「たけふみくん、どうかした?お腹いた

           い?」


少し暗い顔になった俺を心配してユイが話しかける。狐の耳がぴょこんと現れて、垂れてしまっている。


どうやらこいつの変身は感情にも左右されるらしい。

にしても昨日からコロコロと表情が変わり、忙しいやつだ。先程とは打って代わり、しょぼんとした表情を見せる彼女を見て少し元気が出た。


他人(?)に心配を掛けている場合ではない。

今はかなたを笑わせる事に集中しなければ。


た「いや、大丈夫だよ。かなたが待ってる。

       急ごう!」


再び顔がぱっと明るくなる。


ユイ「うん!」


ぼんっ!


返事とほとんど同時に彼女は狐になった。

まさか。


チラッとこちらを見て、全力前進猛ダッシュ


た「まじかーーーーーーーー」


昨日より少し荷物の多い俺は昨日よりも全力で真夏の道を駆け抜けた。