僕の夏休み vol.6

はあ、はあ、はあ…


あんにゃろうよくも…


公園近くに全速力でたどり着いた俺は、どさっと荷物を下ろす。


ぼんっ!


ユイ「たけふみくん、大丈夫?」


大丈夫じゃないよ。

俺には足が2本しかないんだぞ!!


…ユイより体の大きな俺がそんな事を言うのも格好悪いので口を噤む。


た「だ、大丈夫だ。でも、水…」


持ってきた帽子をユイに被せながら、掠れた声で助けを求める。


俺を限界に到達させた張本人は初めての麦わら帽子に喜び、クルクルと踊っている。


かなた(天の声)「公園でお水飲めるよ。」


た「おう…!かなた!っはあ…はあ…もう来て

       たか。」


軽く挨拶を交わした後、かなたにも麦わら帽子を乗っける。そして、オアシスへの案内を懇願した。


た「ぷはぁぁぁああ!!生き返る…」


公園の水飲み場で生命の水を補給し、顔を洗う。

汗だくのタンクトップを水に濡らそうと考えた時、ある事を思い出す。


た「そーいえば、じいちゃんがこれをくれたん

       だ。お菓子だぞ、一緒に食べよう。」


ユイ「やったー!たけふみくんがくれるお菓

           子、おいしいから好き!!」


ユイは喜んで、赤くてしわしわのそれを頬張る。

しめしめ。

俺も思い切って口に入れる。

俺ら2人に先を越されたかなたも慌ててそれを口に入れる。


ユイ・かなた「うぁぁぁぁあああ」


た「ははは!どうだ美味しいだろう。」


思いつく限りの悪役を自らに取り込み、

笑ってみせる。

かなたには悪いが、ユイに散々振り回された仕返しだ。

俺だって酸っぱくて口が萎むが、2人への悪戯の為だ。平然とした顔で頂こう。


ユイ「おいじぐないぃぃ」


かなた「すっぱーーーーーーー」


た「よぅし、作戦成功。

       熱中症対策だから。汗をいっぱいかく準備

       をするんだよ。この酸っぱいのが効くん

       だ。」


ユイ「たけふみくんの嘘つき!!お菓子じゃな

           いよこんなの!」


た「だって、体に必要なものって言ったってこ

       んなに酸っぱいって分かったらお前ら食べ

       ないだろ?」


本音の半分を伝える。


ユイ「そうだけど…」


かなた「そういえば、お姉ちゃんはたけふみの

              お友だち?」


口を尖らせ涙目のまま、問いかける。

(…ごめんな。)


突然の爆弾に心臓がドクンと跳ねた。

やはり、かなたはユイの事を忘れてしまったみたいだ。不安が的中してしまった。

ユイ、大丈夫か…?


チラッと彼女を見る。


にかっ!!


ユイ「そうだよ、私たけふみくんの友だちのユ

           イ。よろしくね!」


あれ?意外と吹っ切れてるみたいだ。

ユイは笑顔でかなたに手を差し伸べる。


た「…あああ、そう。こいつも良い奴だから一 

       緒に遊んでいいか?」


かなた「たけふみの友だちならいいよ。」


固く握手を交わした二人を見て少し、安心した。


た「よし!メンバーも揃ったし、始めるか!」


かなた「僕がししょーだよ。」


た「あー悪い悪い。ししょー、お山に川を通し

       ましょう。」


かなた「うん。たけふみはお水汲んできて。ユ

               イはお山の堀り方教えてあげる。」


ユイ「穴掘りは得意だよ、まかせて!」


ばばばばば


素手で砂場に深い穴を掘ってみせる。

彼女の後ろには一瞬にして昨日俺達が作ったより大きなお山が出来た。


へっへーんと泥だらけのドヤ顔でこちらを見てくる。


かなた「す、すげー。プロの仕事だ。」


どんな言葉のチョイスだよちびっこ。


…確かに凄い。


俺より砂遊びの素質を認められたユイはあっという間にかなたに気に入られた。

ほっとしたような心から楽しそうな表情だ。


それを見て俺も安心する。


ユイの脅威的な脚力(両手)のお陰で30分も経たないうちに、お山には大きな穴が出来た。


た「穴でか!ため池になりそうだな笑」


たくさん持ってきた2Lペットボトル全てに水を入れ、砂場に運んで来きた。

あとは…


た「よし。最後の仕事だ!水を入れろー!!」


ユイ「おおーー!!」


かなた「(こくんっ!)」


じゃばあっ


一気に大量の水が注がれる。

た「だいぶ溜まってきたな!」

かなたと視線を合わせようとしたその時。


えいっ!

うわっ!


ユイがかなたに水を浴びせた。


ユイ「あははー!かなたびしょびしょだ!」


ばしゃっ!


ムッとした表情のかなたがやり返す。


ユイ「きゃー!冷たい!気持ちいいーー」


かなたは不思議そうにキョトンとしている。

仕返しのつもりで水を掛けたのに喜ばれてしまった。


そんな様子を見て俺は堪えきれず、吹き出した。


た「ぷっ、あっはっはっは!! 

       かなた、喜ばれちゃってるぞ!」


ばしゃっ


た「うっ。」


ふっ、と呆れた顔でかなたが見てくる。


た「こんにゃろ!」


ばしゃっばしゃっあはは!ばしゃ!


ずぶ濡れになって遊んだ。


掛けては喜ばれ掛けられてはやり返し、

夢中になっていた。


にっ。


突然の事に固まるユイと俺。

え、かなた今笑った?


ポカンと見つめる俺達を見て、

かなたはささっと表情を元に戻そうとする。


そうはさせない。


バチッと目を合わせ、暗黙の了解でお兄さんお姉さんは、まだ幼いその子に飛びかかる。


た「かなた!楽しいな!このこの〜〜〜」


ユイ「ほんと!楽しいね!!」


先程あれだけ水を掛け合ったのだ。

ユイの顔がぐしゃぐしゃになっているのはきっとそのせいだ。


かなた「や、やめろーはなれろーーー。」


そう言いながら3人とも笑いが止まらない。

よかった、間に合った。


ミッションクリアの合図に俺は安堵した。


ひとしきり笑ったあとは、いちにのさんっで3人で山を踏んで壊した。

その時…


かなた「どうしよう。」


先程とは別人のように顔が曇る。


た「どうした?」


か「こんなに汚したら、お母さんを悲しませち 

        ゃう…」


小さく震えるかなたを見て、はっと現実に引き戻される。


かなたは笑った。

それで俺のミッションはクリアだ。


でも俺が帰ったあとは?

かなたには母親に攻撃される生活が待っているのだ。


ユイ「…!ごめん…」


小さな声で呟き、ユイも心配そうに見守る。

水をかけ始めたのは自分だと後悔しているのだろう。


なんでだ。

なんで、あの楽しい時間を悔いなければいけないんだ。

ユイもかなたも、なんにも悪い事なんてしてないじゃないか。


一時の解決で終わるわけがない。


何でそんなことも気づけなかったのだろう。


まだだ。まだ終わっちゃいない。

かなたも、ユイもずっと笑えなきゃ。


た「大丈夫だ、かなた。俺のじいちゃんの家に

       行こう。服は俺の母ちゃんが綺麗にしてく

       れるよ。あとな、じいちゃんにお前らのこ

       と話したら、甘いスイカを食べさせてやる

       から連れてこいって言われてるんだ。

       二人とも、来てくれるよな!」


かなた「…いいの?」


た「もちろん!ユイも!甘いもの、好きだ

       ろ?」


ユイ「うん…!」


そして俺達は3人もれなく泥だらけで、じいちゃんの家に向かった。