Gが出た

2021年8月10日 PM20:00

この日を一生忘れることはないだろう。


Gが出た。






約5ヶ月ぶりの帰省。


PCR検査を無事に済ませ、

胸踊らせながら荷物をつくった。


部屋の掃除も完璧。


3月に引っ越してきてからいちばん綺麗な状態の部屋に見守られながら、長旅のお供、コーヒーを用意していた。


牛乳もたっぷりと注ぎ、やっと出発だ!!!




テクテクテクテクテクテクテクテクテクテク



…?




テクテクテクテクテクテクテクテクテクテク



…………ヴッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ


なぜいま!?!?

お前どっからきた!?!!??


いやいやいやまてどうしたらいいのでかいぞ???


固まったまま脳みそだけ悲鳴をあげて大暴れの私を他所に、通気口の延長上、天井付近をやつは呑気に散歩でもしに来たようだ。



きんもっっっっっっっ



こんな私も田舎の山の麓育ち。

虫はそれなりに見てきた。

Gだって初めてじゃない。


ただ今回は…


え、お父さん……は………?


振り返っても誰もいない。


そりゃそうだ。

私は一人暮らしだ。


え、まってこれ誰が処理するの?


ここに来て、私は今まで両親に甘えきりだったのだと自覚した。


旅の準備は万端。

スマホはもう車の中。


対処法を調べる事も、助けを呼ぶことも出来ない。


どうしよう。




ゴホッ(天の声)



………………あ!お隣さんがいるじゃないか!!


生活音が筒抜けで疎ましかった壁に、

これ程感謝したことがあっただろうか。


ようし、いでよ!喋ったことないお隣さん!!







あと数ミクロンで壁に拳が触れるという時、ふと思いとどまった。



普通に迷惑じゃね??



当たり前の考えが頭をよぎった。


なんか隣いるなぁくらいに思ってたやつからの突然の壁ドン。

乱暴に呼び出されて渡されたミッションはG退治。




…………………激おこじゃね???

私なら怒る。

少なくとも感情が顔面に思いっきり出る。


しかも、今壁叩いたらやつ飛びそう。。。(ゾッ)


なしだ!お隣さんは頼れない。


じゃあどうする?????

だれか、だれかだれかだれか…!!


「誰かに頼ってるヤツは、なにひとつ成功なんてしない」


ふっと頭に浮かんだ言葉。


昨日読んだ本、「ブログでたべてけてる。:サイト開設9ヶ月で15万円稼ぐようになった僕の物語と、そのノウハウ」の一節だ。


この物語(実話)の主人公は、旅ブログにリアリティを持たせるため、なけなしのアルバイト代を握りしめ、アジアへ旅に出るのだが、現地で自分のお金は底を尽きた。そこで、友人のクレジットカードを頼りにしたが、叶わなかった。そして彼は大変な苦労をして、4日分の宿を探す事になる。


彼が旅で学んだ事は、大きな敵を前にした私の心に一日越しでズシンと響いた。


そうだ、もう大人になったんだ。

自分で何とかするんだ。

プルスウルトラ!!!!


もう色んな所から色んな言葉を借りて自らを鼓舞し、私はやつに立ち向かった。


浮かんだ選択肢は3つ


1. 即時入居可能の物件を探してすぐに引っ越す。

時刻は夜の20時を過ぎた。現実的じゃない。


2.シンプルに捕まえる。

ガムテープとか持ってないしやつの感触を感じたくない。却下。


3. とりあえず何かで閉じ込めて動きを封じてから考える。

なんか嫌だ。却…いや。今出来るのはこれしかない。


幸い、食品用パックは沢山ある。

今後使用したパックは二度と使えなくなるが、

緊急事態だ。仕方がない。


もう1つ問題が。


このパックで閉じ込めたとして、

その後どうする?


どちらが先に力尽きるか、

我慢比べになるぞ???

やだ。Gと共に1晩過ごすなんて。


あ!アイラップがあるじゃないか!


アイラップとは、スーパーなどでよく見かける、野菜とか濡れやすいパック品とかを入れる透明のビニール袋だ。


これをパックに被せる。

Gを袋の上からパックで閉じ込める。

パックを外して素早く袋の口を閉じる。


これしかない。

いざ!!!!!!!!!


結果、意外とすんなりパックの中には収まってくれた。

天井付近にいたので、ゆっくりゆっくり窓の方へ誘導する。

この間30分。

後は窓を開けて袋の口を閉じてGを解き放つだけ!!

(殺す勇気はない)


ガタガタガタガタ


あれ?手が震える。おかしいな?

汗も止まらない。


可哀想に、相当無理をしていたのだろう。

あと一歩のところで恐怖に負けてしまい、動けなくなった。


ここからどうしよう。

あとは袋の口を閉じるだけじゃないか。


でも力が緩んだ隙を狙って羽ばたきだしたら??

正気を保っていられるだろうか??

(絶対むり)


ガタガタガタガタ


震えが止まらない。

あと少し、あと少しなんだ。

こいつさえ排除出来れば、安心して実家にかえって、お気に入りのケーキ屋さんで買ったお土産のケーキを家族で頬張るんだ!!!

もう少しだ!!


そんなことを考え、固まることさらに30分。

パックと袋の向こうに微かにうごめくやつが見える。

きもい。やだ。


こんな事ではいつまで経っても帰れない。


やれ!長期戦でやつも弱っている。

今ならできるお前ならやれる!!


やっと震えが落ち着いた手で少し窓を開ける。

そして、パックを外し素早く袋の口を閉じた。そして、、



………行ったか……………………………………………


長い戦いが終わった。

無事に私の城から、招かれざる客を排除する事が出来た。


何より嬉しかったのが、初めて1人でやつに立ち向かい、勝てた。


「誰かに頼ってるヤツは、なにひとつ成功なんてしない」


あの言葉がもう一度浮かぶ。


やったよ、お父さん。。。


その足でギリギリ開いていたスギ薬局に滑り込み、コンバットを買い込んだ。


それらを部屋中に設置し、安心して自宅を後にした…


そしてこの体験を今私は自宅で書いている。


なぜなら出発してなかなかたった頃、

目薬を忘れたことに気づいたから。


ごめん、今日は帰れない。


家族で美味しいケーキを頬張るのはもう少し先になりそうだ。

(賞味期限大丈夫かな)